2025 春号 Vol.131
税務・法律・年金相談
貸借人の無断引越しの対処方法
〔質問〕
私はアパートを経営していますが、その一室を貸しているAさんが家賃を3ヶ月位支払ってこないので、アパートを見に行ってアパートの他の賃借人に聞いたところ、「一ヶ月位前に引越していったみたいですがよくわからない。」とのことでした。郵便受けからも郵便物や広告紙が溢れていました。私がインターホンを鳴らしても反応がありません。連帯保証人のBさんには連絡がついたのですが、「最近は連絡もないのでどうしているかわからない。明渡しは自分ではできないので適当にやってもらってよい。」などといっています。私は、部屋の内で事件、事故があったら大変だと思い、警察に来てもらって、その立会の下、合鍵でドアを開けてみましたところ、Aさんはおらず、家財道具は残っていましたが、生活している様子はありませんでした。Aさんが勝手に引越していったものと思われますし、私が残されたものを処分して、鍵を変えて別の方にアパートを貸してもよいでしょうか。
〔回答〕
1
Aさんの残置した物をすぐに処分して鍵を変えてしまうことは刑法に抵触することになり、してはいけません。あとでAさんが出てきて勝手に処分した等と言われたときに、こちらが謝罪することになってしまいます。
2
まずするべきことは、とにかくAさんを探すことです。Aさんを探して、アパートの残置物の所有権放棄書と明渡書をもらえば、あなたが自由に残置物を処分し、鍵を変えることができます。この時には、未払賃料の全部又は一部を放棄することを引換条件で出すことを考えてもよいのです。その方が裁判所の手続きをとった場合に比べて費用が安くすみます。連帯保証人のBさんには建物明渡しまでの権限はありませんので、Bさんが「適当にやってもらってよい。」と言ったところで、自分で明渡しを実行する正当な理由にはなりません。
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どうしてもAさんの所在を探すことができなかった場合には裁判所の手続きをとるしかありません。Aさんを被告として賃貸借契約を解除して、アパートの一室の明渡しを求める訴状等を作成し、裁判所に訴訟を提起することになります。裁判所の訴状はAさんに送達する必要があるのですが、Aさんがアパートにいないので、訴状は送達できないこととなります。そのため、Aさんがアパートに住んでおらず、所在も就業先も不明であることの報告書を裁判所に提出します。これを受けて裁判所は訴状等の送達を公示送達という方法(裁判所の掲示板に公告する。)で行います。この手続きを経て裁判が開かれると被告Aさんが欠席のままでも明渡しを命じる判決をもらうことができます。
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あなたが、裁判所からAさんにアパートの明渡しを命じる判決をもらっても、自分で残置物を処分してもよいわけではありません。自分で明渡しを実行してしまうことを自力救済といいますが、これは認められていません。裁判所の執行官に対し執行してもらうよう申立をしなければなりません。又、現場で実際に残置物を処分するために執行に当たる業者にその業務を依頼する必要もあります。
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裁判所の手続を経て、明渡を実行するためにはこのように少なからず手間と金員が必要になりますが、かといって自分で明渡しを勝手にすることは許されることではないのです。
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アパートを貸すときには、借りる人の信用状況をよくよく調べて貸すことが一番肝腎です。連帯保証人が信用できる人でも連帯保証人には明渡しの権限はありませんし、連帯保証人には賃借人の金銭の債務の保証の履行を求めることはできますが、それも契約に定められた極度額の範囲内でしか求められませんので注意が必要です。