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2025 新春号 Vol.130

税務・法律・年金相談

高齢化社会と任意後見制度の活用

1.はじめに

『人生100年時代』と言われる今日、自分が将来認知症や痴ほう症などで意思能力が欠如したり判断能力が低下してしまった場合、財産はどのように守ればよいのか?不安に感じていらっしゃる方も多いと思います。我が国の民法には後見、補佐、補助という制度が定められていますが、これらのいわゆる「法定後見制度」は、本人の判断能力が低下した「後」に活用できる制度であるため、いま現在明晰な判断能力をもつ人が、「将来」に備えて利用できる制度ではなく、また本人の意向にかかわりなく家庭裁判所によって後見人が選ばれるので、自分で後見人を選ぶことはできません。自分の判断能力がはっきりしている時点で、将来自分の世話をしてくれる信頼できる人を選任しておきたい。そのような場合に活用できるのが、「任意後見制度」です(「任意後見契約に関する法律」で定められ、平成12年から施行されています)。

2.任意後見制度の手続
(1)任意後見人(候補者)との面談
本人は、将来自分の判断能力が低下した場合に任意後見人となって財産や生活を守ってくれる人を決め、その人と相談して、契約内容を取り決めます。任意後見人には資格は必要なく、契約締結能力があれば誰でも(法人でも)なることが可能です。一般的には本人の親族、友人、知人が選ばれます。
(2)任意後見契約の締結
本人と将来の任意後見人との間で、任意後見契約を締結し、将来の委任事務の内容を確定します。この段階では任意後見人は任意後見受任者と呼ばれます。
(3)任意後見契約の発効(任意後見監督人の選任)
本人の判断能力が低下したときに、一定の者(本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者)が家庭裁判所に任意後見監督人選任の審判申立てを行い、任意後見監督人(通常は弁護士)が選任されます。この選任により任意後見契約が効力を生じ、任意後見受任者は任意後見人となって任意後見監督人のもとで任意後見の事務を開始します。
3.遺族年金の請求

任意後見人に委任できる事項の具体例としては以下のような法律行為が考えられます。

(1)不動産などの管理・保存・処分に関する事項
(2)金融機関との取引に関する事項(預貯金の管理や払戻し、口座の解約など)
(3)生活に必要な物品の購入などに関する事項
(4)相続に関する事項(遺産分割、相続の相続の承認・放棄、遺留分侵害額の請求など)
(5)保険に関する事項
(6)税金の申告・納付

これらは、任意後見契約書中の「代理権目録」の中に記載しておく必要があります。

4.実務上の留意点
(1)任意後見人には原則として誰でも就任できますが、一定の欠格事由があります(未成年者、破産者、行方不明者、本人に対して訴訟をしている者など)。ただし未成年者は法定代理人の同意があれば可能です。
(2)任意後見契約は私人間の契約ですが、適正な契約締結を担保するため、公証人の作成する公正証書によって作成する必要があり、公証人により嘱託登記されます。
(3)任意後見人に委任できる事項はあくまでも法律行為であり、事実行為は委任できません。したがいまして、介護サービス契約の締結などは委任できますが、介護そのもの(事実行為)を委任したい場合は、それを委託する旨の準委任契約を別途締結しておく必要があります。また、相続に関する法律行為は委任できますが、死後の事務(葬儀や埋葬など)は任意後見人の事務にはなりませんので、これらを依頼する場合にも、別途、死後の事務委任契約を締結しておく必要があります。
(4)任意後見監督人が選任された後は、任意後見契約を解除するには、正当な理由があり、かつ、家庭裁判所の許可を得ることが必要となります。そのため、任意後見人を誰に依頼するかには慎重な判断と双方の十分な協議が必要となります。

以上のように、任意後見制度は、公正証書や登記、裁判所による申立てなど専門的な手続も必要とされるため、制度の利用に際しては司法書士事務所・税理士法人への事前のご相談をお勧めいたいます。