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2023 新春号 Vol.122

税務・法律・年金相談

生前贈与は無意味になるのか?

「相続・贈与の一体課税」という言葉が出始め、廃止がささやかれていた年間110万円の暦年課税制度ですが、とりあえず今後も存続される方針となったようです。暦年課税制度の年間110万非課税枠廃止の実施に於いては、全ての細かな贈与の把握や課税徴収がなかなか難しいと判断し、国税当局が代替案として出してきたものが「死亡前数年以内の贈与を相続財産とする」というものです。

現行の相続税法では相続開始前(死亡前)3年以内の贈与は、相続財産としてカウントされます。いわゆる「持ち戻し」というものです。この持ち戻しの期間を7年にしようと政府税制調査会は方針を固めました。
現行の3年以内の贈与持ち戻し制度は、元々が死亡前の「駆け込み贈与」を防ぐために設けられたものです。高齢化社会になり寿命が延び、数十年にわたって親から子へ非課税枠ギリギリの110万円の贈与ですら、継続して10年間やっていれば1,100万円もの財産が非課税で移譲されてしまいます。

贈与税は昭和25年に改正されましたが、国税当局も現在のような高齢化社会になることは予想していなかったでしょうから、コツコツと贈与されていることについて頭を痛めていたと思います。

そこで国税当局は、贈与時期による税負担の格差を是正するという大義名分の下に、3年間の持ち戻し制度の期間延長という手に打って出てきました。どれほどの期間延長にするのか? ドイツや韓国、米国に倣って10年から15年ではどうかなどと、これまた諸外国に倣ってという大義名分です。

贈与税や相続税の増税については、国はやり易いと考えています。何故かというと「票」を失わないからです。国民全体(有権者全体)から見れば、贈与税や相続税に関係する人口割合は少ないからです。

さて、この持ち戻し期間の延長はいつから実施されるのか? 政府税制調査会は、この7年間の「持ち戻し」を2023年度税制改正大綱に盛り込みますが、本年度から遡及して過去7年の贈与を持ち戻すということは実務的に難しいので、2027年度以降に贈与されたものから段階的に4年間延ばして、2031年度に、その贈与した人(被相続人)が将来死亡した場合に於いては、死亡前7年以内の贈与は相続財産に含めるものとします。但し、延長された4年分については総額100万円までは相続財産に加算しなくてもいい、というオマケは付けてくれています。

従って、現行の3年以内の持ち戻しという特権が使えるのも残すところあと4年ということになりそうです。しかし、この持ち戻し制度の対象となるのは「相続人」に対する贈与ですから、実子(相続人)の配偶者や、子(孫)に対する贈与は、持ち戻しの対象になりません。養子縁組をしていてはダメですから気を付けてください。更に、実子(相続人)の配偶者や子(孫)に対する贈与は、家族間の確執が生まれない様にしなくてはいけませんので注意が必要です。

例えば、本年度、長男に300万円贈与すると贈与税は19万円です。そして長男の嫁にも同じく300万円贈与しますと、やはり同じく19万円です。更に孫にも300万円贈与すると、同じく贈与税は19万円です。合計900万円贈与して、贈与税は57万円です。

相続税率が20%という御家庭であれば、900万円に対する相続税は180万円になりますから、57万円の贈与税で済むならば、かなりの節税効果にはなります。

国というのは、皆がゴールに近づくと、ゴールを遠くに持っていく習性があります。今は相続人に対する贈与の持ち戻しに留まっていますが、将来は「二親等」に対する贈与までを持ち戻すとなり兼ねませんから、長期的に戦略的な贈与をお勧めいたします。

社会通念上一般妥当な金額のお祝い金や、生活資金の援助は、贈与税の対象ではありませんから、見せかけの国の人気取り非課税政策(一括贈与・精算課税)にはあまり乗らないほうが良いです。

税務署の前で贈与税について考える人のイラスト