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2022 秋号 Vol.121

営農レポート

種苗法の改正により、果樹・イチゴ等の自家増殖には確認が必要です。

令和3年4月から改正種苗法が施行されました。種苗法は、他の品種と異なる特性を有する品種を登録品種※として登録し、その「知的財産権=育成者権」を付与して一定期間保護する法律です。このたびの改正は、国内の優良品種が海外に流出し、日本の農林水産業の発展に支障が生じる事態を問題視し、海外流出の防止措置がとれることや、育成者権がこれまでよりも活用しやすいように見直されたものです。皆様に直接関わる変更点について解説いたします。
※登録品種は、そのほかの品種と異なることが確認されて、登録を受けた品種。それ以外の品種を一般品種と呼びます。一般品種にも、在来種や品種登録期間が終了した品種など優良な品種は多数あり、登録品種の栽培を推奨するわけではなく、農業者が選んで栽培することができます。

~農業者の利益を守るための法改正~

●旧種苗法下で起きてしまった登録品種の海外流出事故

これまでの種苗法では、登録品種の種苗を購入後に海外に持ち出すことは違法にならず、シャインマスカットなどの優良な品種が日本国内で購入後、中国や韓国に持ち出されてしまい、海外で産地形成されてしまいました。
また、農業者が自己の経営内で栽培する目的で増殖を行う「自家増殖」については、改正前の種苗法でも違法な行為でしたが、増殖実態の把握や、その過失が故意であるかどうかを立証することは難しく、事実上取り締まりが困難でした。そのため、山形県内限定で生産されていたサクランボ品種「紅秀峰」の苗が、自家増殖者からオーストラリア人に譲渡され、オーストラリアで産地形成されてしまった事例などが報告されています。

国内でも人気のシャインマスカット
(写真出典:農研機構)
中国で販売される陽光バラ 香印翡翠
(約490円/パック)(約1357円/kg)
(香印は中国語でシャインと発音される)

ブドウ品種「シャインマスカット」の海外流出と、中国での販売例

●改正種苗法で、貴重な知的財産を守る

上記のような事故が起こらないために、改正種苗法では、下記のとおり厳しい管理体制がとられることになりました。

① 登録品種の種苗が譲渡された後でも、当該品種等を育成者の意図しない国へ輸出したり、制限地域外で栽培する行為は禁じられ、罰則も設けられました。

② 登録品種と制限内容についての表示が義務付けられ( 輸出・栽培地域に係る制限の内容は農水省HP で公表)、購入者も制限内容を遵守する必要があります。

③ 登録品種を増殖するには、自家増殖であっても原則として品種の育成者(育成者権者)の許諾が必要となりました。品種によっては、「許諾料」を求められる場合もあります。

~改正後、農業者が気を付けるべきことは~

●種苗の購入に際しては、表示を確認し、適切に管理する。

登録品種の購入時には、文字表記や登録品種であることを示す「PVPマーク」を確認します。また、海外持出の禁止や栽培地域を限定している場合には、その表示を確認して栽培制限地域外へ譲渡しないように気を付けて適切に管理することが求められています。
表示で確認できない場合等でも「流通品種データベース」で登録の有無や育成者等を調べられます。

● 登録品種を自家増殖(接ぎ木、挿し木、取り木等)する場合、許諾手続きの要否について確認が必要です。

PVPマークの表示例
(色やフォントは問わない)

~自家増殖の許諾の確認とは?~

登録品種を自家増殖する前に、その育成者権者の意向を確認します。国の育成品種は、下表のように、果樹については許諾手続きと許諾料の納付を、栄養繁殖する野菜類や茶については許諾手続きを求めています。都道府県の育成品種については、県内に限定して栽培を認めるものや、条件付きで許諾不要としているものなど品種ごとに情報を公開しています。企業や個人が育成した品種についても、必ず育成者に確認し、必要に応じて手続きを行って下さい。

表 国(農研機構)が育成した登録品種における自家増殖許諾の方法等

対象品目 主な品種 許諾方法等
・ぶどう
・カンキツ
・栗
・ニホンナシ 等
シャインマスカット、クイーンニーナ、はるみ、せとか、津之輝、はれひめ、ぽろたん、美玖里、あきづき、甘太、秋麗 ・Webで申請(有料)
・農研機構が送付する証紙を園地に掲示
・遵守事項を遵守
・カンショ
・イチゴ
・バレイショ
・茶
べにはるか、クイックスイート、おいCベリー、恋みのり、こがね丸、インカのひとみ、せいめい、さえあかり ・Webで申請(無料)
・遵守事項を遵守
・稲
・コムギ
・オオムギ
・ダイズ
・サトウキビ 等
あきだわら、とよめき、きぬむすめ、ネバリゴシ、ミナミノカオリ、はるか二条、キラリモチ、里のほほえみ、シュウリュウ、Ni23、Ni22 ・HP等で遵守事項を確認
・遵守事項を遵守

適切な種苗管理を

これまで、手続きや支払いの必要が無かった自家増殖について、手間が増えてしまったことは事実です。しかし、法改正の目的を理解し、それに遵守いただくことで国内の大切な財産である優良品種を守ることにつながり、産地限定栽培によるブランド力強化や海外産農産物との品質的差別化の維持が可能です。種苗の入手についても、登録品種か一般品種かを表示で確認した上で導入することにより、適切な種苗管理につながります。
ご不明な点がございましたら、お近くのJAや中央農業改良普及センターにご相談ください。