2022 新春号 Vol.118
税務・法律・年金相談
賃貸借契約における中途解約について
〔質 問〕
私は所有するビルの1階をAさんに令和3年4月1日から3年間の約束で店舗用ということで普通賃貸借契約により1ヶ月20万円の賃料で賃貸しました。私は金融機関からビルの建築資金を借入れてその返済もあるので「3年間は解約しません」という条項を特約で書いてもらいました。ところが、9月になり、Aさんから「商売がうまくいかないので令和4年3月31日をもって賃貸借契約を解約する。3年間は中途解約をしないという条項は借家人に不利な条項なので借地借家法上無効だ。令和4年4月1日以降の賃料は支払うつもりもないし支払う資金もない。」と言ってきました。こんなことは許されるのでしょうか。
〔回 答〕
- 一般的に誤解の多いところですが、答えとしては「許されません」ということです。しかし、あなたにとってそれですべて解決したことにならないところが難しいところです。
- 賃貸借契約においては期間を定めて(例えば令和3年4月1日から3年間というように)契約が締結された場合は、賃貸人は3年間賃貸する義務を負いますが、賃借人も3年間賃借する義務を負います。このことは普通賃貸借契約でも、定期賃貸借契約でも同じです。賃借人が中途解約するためには、契約で中途解約できることを取り決めしておく必要があります。中途解約できる条項がなければもともと賃借人も中途解約はできないのです。したがって、「中途解約しません」という条項があってもなくても、賃借人は中途解約はできないのです。
- そして、中途解約禁止条項はAさんが言うように「借地借家法により、賃借人に不利な条項だから無効」ということには該当しません。以前には借地借家法上の解釈として賃借人は中途解約できると主張する人もいましたが、現在の裁判例ではそのような主張は認められていません。但し、質問と違って居住用の定期建物賃貸借契約では例外的に中途解約が認められている場合があります。
- 普通賃貸借契約で契約が自動更新になっている場合、賃借人から中途解約する事は可能ですがそれは、自動更新後の賃貸借契約が「期間の定めない賃貸借」になっているからです。
- Aさんは賃貸借期間が満了する令和6年3月31日まで賃借りする義務、言いかえれば、それまで賃料を支払い続ける義務があることになります。ところが、問題はここからです。Aさんに十分な資力があれば賃料を支払う義務がありますから、あなたは賃料を受け取り続けることもできるでしょう。しかし、大抵の場合、Aさんにはそれだけの資力がないことの方が多いのが世間一般です。
- 裁判所に訴訟を提起して、裁判所からAさんに対して、令和4年4月1日以降の賃料を支払うよう命じる判決をもらうことはできるでしょう。しかし、裁判所、つまり国は、判決は出してもAさんに代わって賃料を立替えて支払ってくれるわけではありません。あなたがAさんの資産を調べてこれまた裁判で差押えるという手続きが必要になります。Aさんに資産がなければ判決は「絵に描いた餅」になってしまうのです。
- Aさんの資産状況、商売の動向を見極めたうえで、後継のテナントを探して賃貸できる目途をたてたうえで、令和4年4月1日以降の賃料が支払われなければ賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除するということを考えることになるでしょう。
- 何にしても賃貸する際は賃借人の信用を十分に調査、吟味したうえで賃貸するということが一番肝腎です。