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2021 秋号 Vol.117

税務・法律・年金相談

自筆証書遺言が利用しやすく

1.はじめに

近年、高齢化社会の進展とともに「終活」が浸透するなか、故人(=被相続人)の最終意思をめぐる家族のトラブルに対処すべく、遺言を活用するケースが増えています。このうち自筆証書遺言は、公正証書遺言と異なり、費用もかからず、遺言者本人だけでいつでも作成できるというメリットがある反面、①すべてを直筆で正確に記載することは高齢者等には困難であること、②自宅で管理すると紛失や偽造の恐れがある、というデメリットも指摘されていました。

そこで、2018年の民法改正および特別法の制定により、①自筆証書遺言の方式が緩和されるとともに、②法務局による保管制度が新設され、自筆証書遺言が 今までよりも利用しやすい制度となりました。

2.方式の緩和:改正民法968条
(2019年1月13日施行)

従来、自筆証書遺言は、財産目録も含め、全文を自書して作成する必要がありましたが、2019年1月13日以降作成される遺言書では、自筆証書として一体のものとして不動産や預貯金などの財産目録を添付する場合には、その目録については自書する必要はなく、パソコンで作成してもよいことになりました(改正民法968条2項)。遺言者以外の方が代筆することも可能です。たとえば、財産目録の作成を税理士や弁護士などの専門家に委託することも可能になったのです。手書きの煩雑さが減り、記載内容の不備により無効となる危険性も減ることが期待されます。

ただし、自書していない財産目録については、作成した全ページに署名および押印が必要となります。また、遺言書の本文は、今まで通り遺言者ご自身がすべて手書きしなくてはなりませんので注意が必要です(加筆・訂正の方法なども今までと同じです。同条3項)。

3.保管制度の新設:遺言書保管法
(2020年7月10日施行)
(1)法務局での自筆証書遺言の保管が可能に

「法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)」の制定・施行により、公的機関である法務局が自筆証書遺言に係る遺言書を保管・管理することができるようになりました。対象となるのは、法務省令で定める様式に従って作成された封をしていない自筆証書遺言に限られます(法4条2項)。遺言者は、住所地・本籍地・所有不動産所在地を管轄する法務局に(同条3項)、自ら出頭して申請しなければならず(同条6項)、代理人による申請は行えません。法務局では、遺言書の原本を保管するとともに、画像情報等の遺言書情報の管理を行います(法7条)。これによって自筆証書遺言をめぐる紛失や偽造などのトラブルが未然に防止されることが期待されます(2021年8月時点で1万件ほどの保管実績があるようです)。

保管後は、誰でも、保管した遺言書の有無等を証明した書面の交付を請求することができます(法10条)。また相続開始後は、相続人、受遺者および遺言執行者らは、記録されている事項を証明した書面の交付または関係遺言書の閲覧を請求することもできます(法9条1項・3項)。この場合、遺言書が保管されている事実は、他の全ての相続人に、法務局からすみやかに通知されることになります(同条5項)。さらに、遺言者は希望すれば、予め指定した相続人等(1名に限る)に、遺言が保管されている旨を死亡時に通知してもらうことが可能となりました(2021年から運用開始)。

(2)検認が不要に

自筆遺言証書が発見されたときは、家庭裁判所が相続人立会いのもとで、遺言書を開封し、遺言書の内容を確認することが民法上は必要とされます(検認手続)。

しかし、法務局に保管された自筆証書遺言については、偽造等のおそれがないことから、家庭裁判所による検認手続は不要とされました(法11条)。

4.今後の留意点

このように、今回の法改正により、自筆証書遺言の利便性は格段に向上することが予想されます。また、遺言書の有無およびその作成の真正に関する争いごとが未然に防止されるという意味で、相続の「入口」における不必要な争いは、今後当然少なくなるでしょう。

ただし、法務局による保管制度はあくまでも形式審査であるため、遺言内容の有効性・適法性(公序良俗や遺留分との関係など)や財産目録記載の財産内容の網羅性まで保証するものではありません。「入口」から相続の「中身」に入った後は、相続人間で十分な協議を行って手続きを進める必要があることは、従来と変わりありません。