2024 秋号 Vol.129
税務・法律・年金相談
贈与するなら、ちゃんと贈与
皆様も御存じの通り、贈与は毎年110万円が非課税枠(暦年非課税枠)です。従って110万円贈与ならば贈与税申告も不要となります。
110万円の贈与を10年間続ける連年贈与は合計1,100万円に対する贈与になり贈与税が課税されてしまうなどと言われることがありますが、これは都市伝説に近いもので、きちんと「贈与」としての体を成していれば問題ありません。「贈与」とは民法上の契約において「あげますよ」「はい、もらいます」という当事者間の承諾があって成立するものです。未成年者においては民法上の法律行為は無効ですので、きちんと形式を整えておかないと「贈与」が成立しないということに注意が必要です。
それでは1,100万円の贈与が認められないとどうなるのでしょうか?「贈与」という行為が無かったものとされるわけですから相続財産として相続税が課税されることになります。最近の税務署の指摘が多いのは子や孫への贈与において「贈与」としての体を成しているかという争点です。「名義預金」という存在に目を光らせています。
ある方が2人の小学生のお子さんに贈与税がかからない金額と思って毎年60万円ずつ贈与しようと、それぞれの名義の預金口座を開設しました。2人の子供が大学を卒業し社会人になるころにはそれぞれの通帳に960万円の残高となっていました。1人は女の子で嫁いだ時に「これはお父さんが今までお前のために贈与してあげていたものだ、持っていきなさい」と渡してあげた通帳には既に1,140万円入っていました。
もう一人は男の子でやはり結婚を機に贈与として積み立てていた通帳を手渡してあげました。こちらも1,320万円ほどの残高になっていました。数年後に相続が発生しました。税務署は被相続人(父親)・相続人の預金口座を過去遡って調べます。調べますと確かに父の口座から60万円ずつ2人の子供に自動振替をしていて届出の印鑑は親が管理している状態でした。「贈与」という法律行為は成されていたのでしょうか。小学生の頃はまだまだ未成年です。成人してからも「贈与」という「あげます」「ありがとう、もらいます」という受諾はあったのかを税務署は問います。
相続人達は「毎年父親から贈与されていたと認識もしていたし、預金の管理は父親に頼んでいました。」と主張しましたが、かなり厳しい主張であるのと、そもそも未成年である時期についてはどうなのかという点です。
税務当局の結論は、父は子供の名義を借用していただけになる。名義は子供の預金通帳だが、実質には父の預金である。言い換えれば父の預金から父の預金に移しただけである。従って父の預金であるということは相続財産であり相続税の課税対象になる。もし「贈与」という論点ならば父親からそれぞれの子供が「これは今までお前のために貯めていたものだ」と手渡された時になるでしょう。すると贈与金額はそれぞれ1,140万円、1,320万円に対するものになります。
子が自由に使える子の管理下の通帳に入金していれば「贈与」となります。また、未成年者に対して贈与するならば親権者として代行する者の贈与の契約書の作成が必要です。親の管理下にある通帳に移すだけでは贈与にならず名義預金ということになります。
節税目的のつもりが子の名義預金を介在させた父親の自作自演に終わった残念な贈与対策でした。「贈与した」と「贈与したつもり」で相続税が変わってしまいました。贈与の持ち戻しが7年に伸びたとは言え、贈与はボディブローの様に良く効く相続対策です。残念な結果にならないように、ちゃんと贈与しましょう。