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2024 秋号 Vol.129

営農レポート

畑の土壌診断について ~土壌環境を健全に保つために~

土壌診断を定期的に行い、前作の肥料成分残存量を把握し、次作の肥料投入量を加減して畑を良い状態に保ちましょう。政府・農林水産省は、生産から販売、消費に至るまでの食料システムを持続可能なものとするため令和4年に「みどりの食料システム戦略」を策定し、その達成に向けて各産地において経済性や生産性に留意しながら、環境負荷の低減を図る栽培を推進しています。そのなかのひとつに肥料の適正な使用があげられています。作物の生育・収量に応じて、適切に肥料を与えられているか、栽培終了後に残っている肥料成分はどのくらいあるかを確かめるための手段として土壌診断が活用できます。
北多摩農業普及センター(以下、普及センター)は、夏季と冬季に畑の土壌診断を行っています。実施のお知らせは、JA各支店や生産部会などを通じて行います。おもに夏季はハウス施設、冬季は露地畑を対象として、前作の収穫を終えた土壌を採取して乾燥させたものを分析し、それらの結果をお返ししています。

土壌採取から提出方法

北多摩地域の畑はその多くが黒ボク土と呼ばれる火山灰に由来する土壌です。今回は黒ボク土の畑を例に説明をします。栽培ほ場の土採取は、場所による差を小さくするため、図1の封筒左上のように1つの畑で中心と対角線上の端付近5か所を選びます。移植ごて等を使い表面の土をよけてから、下の作土層部分を採り、それらをボウルなどの容器でよく混ぜます。植物の根などを取り除き、土の大きな塊は砕きます。その土(試料)を作業場や車庫など日光を避けた室内に新聞紙などを敷き、その上に薄く広げて乾燥させます。乾燥させた土は提出用封筒に入れ、氏名やほ場名称・住所、前作、後作など記入して、JA各支店や生産部会などを通じて提出してください。普及センターはpH、EC、リン酸、石灰、苦土、加里の項目を分析して、その数値から診断した結果をお返ししています。

図1 土壌試料提出封筒

pH

土壌の酸性・中性・アルカリ性を示す指標です。多くの作物はpH6.0~6.5の弱酸性土壌で良好に生育します。pHが低い場合は石灰資材を施用して改善を図ります。施設栽培等でpHが高い場合は、石灰資材の減量や硫黄華を施用して改善を図ります。

表1 適する土壌pHの値

pHの値 野菜・イモ類 花き類
4.5~6.0 ジャガイモ、サツマイモ、ダイコン、カブ、ニンジン、キュウリ、インゲン等 シクラメン、マリーゴールド、コリウス、ツツジ、ツバキ等
5.5~6.5 トマト、ナス、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、エンドウマメ、コマツナ等 パンジー、ゼラニウム、ポインセチア、スイセン等
6.0~7.0 ホウレンソウ、ネギ、タマネギ、アスパラガス、トウガラシ、レタス等 プリムラ、クロッカス、サボテン等

EC

電気伝導度とも呼びます。肥料成分の塩基類が多く残る土壌において、その数値が高くなります。とくにEC値と硝酸態窒素含量の相関が高いため、硝酸態窒素含量を推定するのに使われます。
黒ボク土の目安として、次の作付けをする前のEC値(単位:mS/cm)が0.3以下の場合は窒素成分を元肥に基準施肥量施肥します。0.4~0.7の場合は基準施肥量の2/3、0.8~1.2の場合は基準施肥量の1/2、1.3~1.5の場合は基準施肥量の1/3を施肥します。EC値が1.6を超える場合は窒素成分を与えずに栽培を始め、作物の生育状況を観察しながら追肥で調整をするようにします。

リン酸

リン酸は不足すると、作物の発育が不良となり、開花や結実も悪くなります。しかし、長年栽培を継続している畑の土壌では、過剰となる事例も多くなっています。リン酸は過剰になっても生育に障害は出にくいですが、あまり多すぎると成熟が早まり減収したり、マグネシウムや亜鉛の欠乏を誘発することもあります。また、過剰に施肥することは環境への負荷や経済的な意味合いからも望ましいことではありません。
土壌分析によるリン酸の数値(単位:mg/100g乾土)が、10以下の場合は基準施肥量の1.2倍を、10~50の場合は基準施肥量を、50~80の場合は基準施肥量の4/5を、80~100の場合は基準施肥量の1/2をそれぞれ施肥します。100を超す場合はリン酸成分を与えず栽培します。

交換性塩基類(石灰:カルシウム、苦土:マグネシウム、加里:カリウム)

石灰、苦土、カリの土壌残量は過不足だけでなく、これらの成分同士のバランスも重要です。この成分同士は養分吸収を相互に阻害する効果(拮抗作用)があります。例えば加里の多用で石灰、苦土の吸収が抑制され、加里の吸収は石灰、苦土の多用で抑制される関係にあります。これら各成分のバランスが崩れると作物の生育が悪くなることがあります。

おわりに

皆様は作物の生育や収量を観察して施肥を行っていることと思います。それと合わせて、数年に一度は普及センターが行う土壌診断を利用していただき、その分析値から圃場に残る肥料成分量を確認して、次作の施肥量を加減することで圃場を適正な状態に保ち、環境負荷軽減や経費削減に考慮しながら持続的な栽培を継続なさってください。
<参考資料>土壌診断の方法と活用:藤原、安西、加藤(農文協)