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2016 夏号 Vol.96
税務・法律・人事・労務管理相談
建物賃貸借契約と建設協力金
- 建物賃貸借契約の締結にあたって、敷金や保証金が授受されることがあります。敷金については、従来は敷金とはどういうもので、いつ返すのかということも法律では決まっていませんでしたが、今回予定されている民法改正においては明文の規定が置かれることになり、賃貸借が終了し賃貸物の返還を受けた時・適法に賃借権を譲渡した時に返還されるものと規定されることになりました。これに対して、保証金については、今回の民法改正においても何らの規定はされず、今後も当事者の合意にゆだねられることとなりました。以下においては世上、比較的よく行われている建設協力金と保証金について説明します。
- 土地所有者が賃借人指定の仕様の店舗用建物を建ててその敷地と一緒に賃借人に賃貸するということがあります。その際、はじめに、賃貸人と賃借人との間では建物賃貸借予約契約を締結します。その後に建物の建築が始まるのですが、建築工事請負契約は、賃貸人と建築業者の間で締結されます。しかし、実際の工事の打合せ等は賃借人と建築業者の間で行われ、賃借人が望む仕様の建物が建てられます。工事代金は賃貸人が建築業者に支払うのですが、その工事代金額を賃借人は賃貸人に建設協力金として預託します。この建設協力金は、実際には全て建築業者に支払われるので賃貸人の手許には残りません。なお、建築工事請負契約は賃貸人と建築業者の間で締結されるので、工事に瑕疵があっても賃借人は関係がないことになってしまうという変なところがありますが、今回は改正の対象とはなっていません。そして、建物が完成して引渡しをすることができる状態となったときに建物賃貸借(本)契約が締結されます。これに代えて予約契約の完結という意味で予約契約完結の確認書を作ることもあります。そして、その際に建設協力金は建物賃貸借契約において、例えば20%を敷金に、80%を保証金に振り替えられます。そして、保証金は毎月一定額ずつ分割で賃貸人が賃借人に返還することになるのですが、実際には賃借人が賃貸人に支払う賃料の一部と相殺するという形をとります。
- 問題はここからです。建物賃貸借契約の目的である建物は、賃借人の使いやすいように建設、施工されており、汎用性のないものが多く、したがって他に転用することはむつかしいのが現実です。したがって、賃借人が契約中途で中途解約(つまり撤退)したときは、賃貸人には保証金という債務(借金)と他に転用できない建物が残ります。つまり、賃貸人には、保証金債務の外に建物取壊費用や整地の費用の負担が残ることになります。
- 現在の多くの賃借人は出店をしても儲からないとみると、店舗のリストラと称してすぐに撤退をしてしまうため、賃貸人としては、これらの残される負担による損害が少ないように、予約契約締結時に賃借人の中途解約に備えて対策を講じておく必要があります。
- その対策としては、次のようなことが考えられます。①賃借人の中途解約禁止期間を定めること、②中途解約の違約金として、保証金の没収の割合を定めること(例えば100%、70%、50%、30%等です。契約締結時からの期間に応じて没収の割合を変えることもよくなされています。)、③定期建物賃貸借であれば賃料を固定にすることも考慮すること、などです。これらのことは保証金の残債務、建物取壊費用、整地費用がいくらあるのかの計算をしたうえで組合せて判断していくことになるでしょう。賃貸人としてある程度のリスクはとらざるをえないと思いますが、思いもかけない損害を受けないためには予めリスク計算をしっかりしておくべきでしょう。