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2020 春号 Vol.111

税務・法律・人事・労務管理相談

賃料の増額請求と減額請求

1.賃料の増額請求権と減額請求権

建物を賃貸借する時には当然賃料額も取決めします。例えば、ある建物の賃料を1ヶ月80万円と決めたりします。当事者が締結した契約は守られなければならないということは契約法上の鉄則です。しかし、契約締結後何年もしますと、当初取り決めた賃料も契約の当事者の一方から増額請求をしたり、減額請求したりすることが認められています。
借地借家法第32条第1項本文は、いったん取り決めた賃料も、その後の事情の変更により不相当となった場合に、その是正のために当事者にその増減額を請求できるとしています。契約締結時には予想できなかった周辺事情の変化があれば適正な賃料に変更できるとするのが公平だとされているのです。

もっとも同法第32条第1項但書には「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合にはその定めに従う」と規定されていますから「一定期間増額しない」という特約(借家人に有利な特約となります。)は有効になります。この建物の賃料の増額請求、減額請求はいつそれがなされたかということが重要になりますので、通常は配達証明付の内容証明郵便で行います。
家主の側からは、例えば月額80万円の賃料を月額100万円に増額するという増額請求をすることになりますし、賃借人の側からは月額80万円の賃料を月額60万円に減額するという請求をしたりすることになります。当事者間で協議が成立すればよいのですが、協議が成立しない場合には相手方は「相当と認める額の建物の借賃を払えばよい」ということになっています。月額90万円が相当だと考えれば当面は90万円を支払えばよいということです。

又、減額請求の場合には、例えば、家主からは70万円は支払って下さいということもできます。そして、当事者間で協議が成立しない場合、賃料の増額、減額請求について裁判所に調停を申立てることになります。いきなり訴訟を提起することはできません。調停が不成立になればそこで訴訟を提起することが認められています。
そして、訴訟になって増額、減額の裁判が確定した場合には、増額、減額を請求した日から増減の効果が発生し、暫定的な支払い額に不足がある場合には不足分に年1割の利息を付け加えて支払うこととなり、受け取りすぎていた場合には受け取りすぎた分にやはり年1割の利息を付け加えて相手方に支払うことになります。年1割という高い利息を付けることで妥当な金額への当事者の歩み寄りを期待しているわけです。

2.定期借家契約の場合

前記1の賃料増額請求、減額請求は、普通賃貸借の場合ですが、定期借家契約の場合には重大な違いがあります。定期借家契約の場合には、賃料増額請求、減額請求について、当事者間で約束をした場合には借地借家法第32条の適用がされません。
したがって、例えば、賃貸借期間中は賃料の増額請求、減額請求をしないという約束をすれば、増額請求、減額請求はできません。家主が銀行から借金をして建物を建てて賃貸する場合には賃料の減額がありませんから家主としては安心できることになります。ただ、このような特約は定期借家契約が3年位の期間のものであれば問題は少ないのですが、10年とか20年とかの長期になりますと、経済のインフレ、デフレということもあり、賃貸人、賃借人双方にとって極めて危険が大きいものとなってきますので注意が必要です。