2020 春号 Vol.111
営農レポート
市街地で行う野生獣対策
野生獣の農作物被害は、都内全域に広がっています。JA東京みどり管内では中山間地のようなクマ、シカ、イノシシ等の大型獣は稀ですが、タヌキやハクビシン、アライグマ等の中型野生獣被害が広く見られています。しかし、適切な対策で被害を防ぐことは十分可能です。
野生獣対策は、捕獲と侵入防止の二本立てで!
野生獣による農産物被害を防ぐには、物理的に獣の侵入を防ぐ必要があります。圃場の周りに防御用の網を張ったとしても、野生獣は食い破ったり乗り越えたり、土を掘ったりして侵入します。野生獣の特性に合った方法で侵入を防止します。次いで、地域の野生獣を適正な密度に抑える捕獲を実施します。
1 簡易電気柵を使った被害防止
中山間地など、大型の野生獣被害が多発する地域では、施工業者が、大面積を覆う頑丈な常設型電気柵を設置しています。しかし市街地では、必要な場所に必要な時期だけ手軽に設置・撤去ができる「簡易電気柵」が便利です。設置は、導入する機種や圃場の形状等にもよりますが10aあたり1~2人、数万円程度で可能です。電源装置や電導線等の資材は繰り返し使用できるので、経済面でも負担が少なく済みます。
販売されている簡易電気柵は、おおむね5,000~10,000Vを1~1.3秒に1回、瞬間的に通電させるタイプが中心です。電圧は高いものの、電流はごく弱く、安全な設計です。電源は乾電池やバッテリーが大半です。
簡易電気柵を実際に設置した状況が、写真です。弱々しく頼りなげに見えますが、確実に設置して正しく使えば、圃場への野生獣の侵入を確実かつ安全に防いでくれます。
写真 簡易電気柵の設置例
表は、中央農業改良普及センター管内で使われた簡易電気柵の設置結果です。総合的に検討して、10a当たり設置費用3万円以下、設置作業3時間以内のものが実用的です。
なお、表中の「簡易電気柵の商品名」の「Ⅰ型」は、設置方法が複雑で正確な作業が難しく、「Ⅱ型」や「Ⅲ型」に比べて効果が劣りました。
表 中央普及センター館内での簡易電気柵の設置結果
調査機関:平成30年7月~令和1年12月
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設置場所 | 被害作目 | 対象獣 | 設置面積単位(a) | 設置費用人件費除く(万円) | 10a当たり設置費用(万円) | 設置時間(時間)作業者全員 | 10a当設置時間(時間) | 被害防止効果 | 簡易電気柵の商品名 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A市 | ブドウ | ハクビシン | 50 | 24.0 | 4.8 | 40.0 | 8.0 | 不十分 | Ⅰ |
B市 | ナシ | ハクビシン | 10 | 8.0 | 8.0 | 16.0 | 16.0 | 無 | |
C市 | ブドウ | ハクビシン |
13 | 2.5 | 1.9 | 3.0 | 2.3 | 有 | Ⅱ |
D市 | 採卵鶏 | タヌキ | 20 | 3.2 | 1.6 | 4.0 | 2.0 | 有 | |
E市 | 植木苗 | キツネ | 10 | 2.1 | 2.1 | 1.0 | 1.0 | 有 | |
F市 | スイートコーン | タヌキ | 8 | 3.0 | 3.8 | 2.0 | 2.5 | 有 | Ⅲ |
簡易電気柵で安全かつ効果的に野生獣の侵入を防ぐため、以下の点に注意して下さい。
- 簡易電気柵に添付されている説明書を良く読んでから設置する。
- 住民が通行する道に隣接する場所では、通電していて危険であることを明確に表示する。
なお人通りがある昼間には、自動で通電を止める使い方も可能。 - 交通量の多い道路に隣接して、簡易電気柵を使わない。(うっかり簡易電気柵に触れ、思わず車道側にのけぞる危険がある)
- 草や木が電導線に接触すると漏電してしまい、効果がなくなる。
2 有害鳥獣捕獲
野生獣被害を減らすには、簡易電気柵の設置等で野生獣被害を防ぐことに加え、「有害鳥獣捕獲」も行います。ワナを仕掛けて野生動物を捕獲し、地域内の生息密度を低くします。ただし、すべての野生動物は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」で捕獲が禁止されているため、実施するためには東京都環境局の許可が必要です。
なおJA東京みどりもタヌキ、アライグマ、ハクビシンの捕獲許可を得ていますので、必要な場合にはJAや普及センターにご相談下さい。
3 その他、野生獣対策で注意すべきこと
- 圃場周辺に古い資材等を放置しておくと、野生獣が隠れたり巣作りしたりする。また草や木や落ち葉が多いと、野生獣がこれらに身を隠しながら圃場に近づくことができるので、圃場の周辺を整理整頓する。
- 圃場の近くに、野生獣の餌となる収穫残渣を放置しない。周辺の果実も餌となるので、残さず収穫する。
- 使わない時には倉庫や作業場の入り口や窓を閉じる。また壁の穴をふさいだり下水溝に蓋をしたりして、野生獣の侵入や巣作りを防止する。
- 被害に気付いたら、JAや普及センターに相談し、早目の対策を講じる。