2018 秋号 Vol.105
税務・法律・人事・労務管理相談
「相続」「相続税」を考える前に!
「相続」は、世代間で毎年50兆円以上の財産が移動します。相続で財産をもらうのは50代、60代のアクティブシニアが多く、求める商品、サービスも多様化し、変化もしてきています。そこにビジネスチャンスとばかり、様々な業者が顧客ニーズを先取りしようと、狙っています。
相続というものは、その御家庭により状況は様々です。配偶者がいる、いない。子供がいる、いない。事業用資産がある、ない。借入金がある、ない。兄弟の仲が悪い、良い。各御家庭の状況が違う中で、一辺通りの相続セミナーなどに行っても、我が家にマッチングするものは、なかなかありません。
それでも、聞かないよりはましだ、という具合に、ハウスメーカーや、金融機関系、保険会社系の無料相談などに足を運び、その中から、無理やり我が家にマッチングするものを擦り合わせ、相続対策なるものを施してしまって、困っている方も少なくありません。
相続対策というものは、我が家にとって一番有利な、次世代に無理なく受け継がせていくオリジナルな方策を考えなくてはいけません。
先ず考えなければならないことは、「相続対策」と「相続税対策」の違いです。多くの方は、相続対策と相続税対策を混同しています。そればかりか、書籍やセミナーの中にも相続対策を冠に挙げながら、相続税対策にしか触れていないものもあります。
ウチは税金を払うほど財産がない、或いは、ウチの相続税は、預金と、あそこの土地を売却して納めることにしてあるから、相続対策なんて必要ない。などと考えている方が多いのですが、これが、相続対策と相続税対策を混同しているというものです。
相続対策と相続税対策とでは、明らかにその目的が違います。税金の対象になる財産がある方が、ややこしい税法に手を焼きながら、納めるべき税金をなんとか軽減できないかと行うのが「相続税対策」です。
税金のかかる財産があろうが、なかろうが、それをどう処理するのかきちんとしておかないと、家族が激しく憎しみあったり、バラバラになったりという不幸なことが起こります。そうした問題が起こらないようにするのが「相続対策」です。
相続対策で最も大事なことは、相続人同士の醜い争いを防ぐという事です。もらえるものは、少しでも多い方がいいというのは人間の自然な感情です。相続人の間の感情の行き違い、猜疑心、その様な身内の争いを防ぐことが大切です。
相続税対策で大事なことは、とにかく早めのスタートをするということです。なぜかというと、親が亡くなる間際とか、高齢になって寝込んでからではもう遅いという事です。親の判断能力が明確なうちに進め、ギリギリの泥縄対策にならないようにすることです。ギリギリの対策は、そこに親の意思決定はあったのか、細かいところまで、税務署にチェックされかねません。
相続対策、相続税対策は、話を聞いて一方通行で受け身にならず、こちらから戦略的に我が家の問題事項をきちんとまとめて相談することが大事です。ちょっと例を挙げてみましても、相続財産の算定はどうするの?遺留分は?争族になりそうだが防ぐには?認知症になったらどうなる?法定相続人以外に財産を残す方法は?生前贈与で相続分は減るのか?タワーマンションで相続税は安くなる?配偶者は税金が安くなる?みなし財産とされるものは?死亡保険金は?土地の形状や分割方法で相続税は安くなる?広い土地は相続税が安くなる?相続時精算課税は効果がある?贈与税の対象となる生命保険金とは?遺言書の効果は?
などなど、我が家における問題点、改善点をきちんとまとめてから、専門家に聞いて、受け身にならず、こちらから攻撃的に作戦を練っていくことが大切です。