2018 春号 Vol.103
税務・法律・人事・労務管理相談
民法改正の施行日が決まりました
民法を改正する法律が平成29年6月2日公布され、施行日が平成32年4月1日(但し、一部の例外があります。)となりました。改めて今回の民法改正で実務上特に注意を要する点をご説明致します。
1 借地借家関係
- (1)敷金
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これまでの法制では敷金はどういうものでいつ返すのかということが決められていませんでしたが、賃貸借が終了し、賃貸物の返還を受けた時、適法に賃借権が譲渡された時に返すことになりました。その時に未払の賃料債権があれば差引けますが、この点はこれまでの実務で行われていることをそのまま規定しただけです。
今回の民法改正では敷金は「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。」とされました。これに対して、保証金は一般的には「賃貸借に伴う賃借人と賃貸人との間の賃借人を貸主、賃貸人を借主とする金銭消費貸借契約」とされますが、保証金については、何らの規定はされていません。敷金と保証金は言葉の上では違いがありますが、実際の契約上では今回の民法改正による敷金に該当するのか、保証金に該当するのかあいまいな契約があります。
今回の民法改正では、不動産が譲渡された時には、原則としてはその不動産の賃貸人の地位はその譲受人に移転し、敷金の返還債務も譲受人に移転するとされています。従前の賃貸人よりも譲受人の信用力が劣る場合に、保証金のつもりで預けていた金員が敷金だと判断されて譲受人の引受けとなった場合には、保証金を預託した賃借人としては不安になってしまいます。敷金と保証金の区別をはっきりさせて預託することが大事になってきます。 - (2)明渡時の原状回復
- 原状回復といっても賃貸した時の状態に戻すことではありません。普通の使用で傷んだもの、経年変化によるものは賃借人の責任ではないことになりました。現在の裁判例、実務の取扱いを追認するものです。国交省から原状回復をめぐるトラブルガイドライン再改定版が出ていますのでそれに準拠して約束をしておくことが必要です。例えば、「明渡時にクリーニングをする。ペットは禁止。喫煙は禁止。」などです。特約は暴利にならないこと、賃借人が十分理解していることが必要です。
2 債務引受
- (1)併存的債務引受
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引受人が債務者と連帯して債務者が債権者に対して負担する債務と同一の債務を負担することです。その方法は次の2通りあります。
ア 債権者と引受人となる者との契約による方法で、債務者の承諾は必要とされません。
イ 債務者と引受人となる者との契約による方法で、債権者が引受人となる者に対して承諾したときにその効力を生じるとされます。
これらは従来の裁判例、実務の取扱いに準じたものです。 - (2)免責的債務引受
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引受人が、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れるというもので、その方法は次の2通りの方法があります。
ア 債権者と引受人となる者とが契約をする方法で、債務者に対してその契約をした旨を通知した時に効力が生じるとされます。
イ 債務者と引受人となる者が契約をして債権者が引受人となる者に対して承諾をするという方法です。
実務の取扱いが大きく変わるのはアの場合と思われます。
従来の裁判例では、免責的債務引受は債務者の意思に反する場合はできないとされていましたが、今回の改正では「債務者の意思に反しない」ことは要件とされておらず、債権者が債務者に対して通知をすれば足りるとされたからです。アの免責的債務引受契約をする場合には債務者に対して通知することが必要となりますので、予め債務者の住所をはっきり把握しておくことが大事なこととなってきます。又、免責的債務引受では引受人は債務者に求償することはできないこととされました。なお、免責的債務引受の債権者は、債務者の債務の担保として設定された担保権を、引受人の債務に移転することができます。但し、引受人以外の者が担保権の設定者である場合にはその承諾を得なければならないとされています。
3 消滅時効
(1)現行法では原則10年であるのが原則5年となります。職業別の未払代金、例えば診察料、請負代金が3年、弁護士報酬が2年、商品代金が2年、飲食店の代金が1年であったりしたものは廃止となり、商事消滅時効の5年も廃止となります。
(2)注意しなければならないのはすべての消滅時効を5年にしたわけではないことです。不法行為のうち人の生命身体に対するものは5年ですが、その他は3年のままです。
4 その他
今回の改正では、保証制度、売主の担保責任、法定利息、約款など重要な改正がなされていますので注意を要します。