2015 春号 Vol.91
営農レポート
短期暴露評価の導入による農薬の使用方法の変更について
1.農薬の安全性評価に短期暴露評価が導入されます
農薬は、安全性評価をもとに設定された残留基準値を超えないように、使用方法が定められています。これまで、この安全性評価は、「人がある物質を毎日、一生涯にわたって摂取し続けても、その残留農薬が健康に悪影響のない」と推定される一日当たりの摂取量(一日摂取許容量:ADI)に基づく、長期暴露評価で行われてきました。
しかし、今後は、この長期暴露評価に加えて、「24時間又はそれより短い時間で摂取しても、その残留農薬が健康に悪影響を示さない」と推定される一日当たりの摂取量(急性参照用量:ARfD)に基づく、短期暴露評価が導入されていくことになりました。
日本では2010年からARfDと短期暴露評価の導入準備が進められ、2014年から、食品安全委員会によるARfDの設定が順次開始されています。今後も、広範に利用される登録農薬を中心にARfDが設定され、残留基準や使用法の変更が予定されています。
ARfDが設定された登録農薬は、続いて厚生労働省により、短期暴露評価が実施されることになります。その評価で、従来の使用方法に従ったときに残留する農薬の推定摂取量が、新基準であるARfDの値を超える場合は、残留基準値が見直され使用方法も変更されることになります。その際、新たな残留基準値は、現行の残留基準値より小さく設定(下方修正)されることになり、農薬の使用もより制限されることとなります。
2.農薬ラベルどおりの使用でも問題になる場合があります!
今回の制度改正が短期間で施行されたため、新しい残留基準値の施行までに、登録内容の変更が間に合わない農薬があります。また、新たな残留基準を踏まえた使用方法等の周知が追い付いていない状況も発生しています。当該農薬を使うこと自体は、使用期限内でラベルに表記された登録内容に従っていれば、農薬取締法上の違反にはあたりません。しかし、従前の使用方法では新たな残留基準値を超過する可能性があり、超過した農産物は食品衛生法違反になってしまいます。
つまり、農薬ラベル通りの使用でも問題となることがあり、当面は十分な注意が不可欠です。
現在、農薬メーカー自身が短期暴露評価を実施し、当該農薬の使用法の注意喚起や登録変更の申請を進めています。
3.使用方法が変更された農薬について
※一部の作物への登録が削除されましたので、必ずご確認ください!
●ただちに新しい使用方法に変えなければならない農薬
次の農薬は、農薬の容器に記された使用期限より前に、残留基準値が変更されます。容器のラベルではなく、最新の登録内容を確かめてから使用してください。
農薬の成分名 | 商品名 | 登録削除された作物 |
---|---|---|
アセフェート | オルトラン水和剤 | かんきつ、かぶ、だいこん、はつかだいこん、トマト、ミニトマト、なす、ブロッコリー |
オルトラン粒剤 | はつかだいこん、ミニトマト | |
ジェイエース水溶剤 | かんきつ、かぶ、だいこん、トマト、ミニトマト、なす、ブロッコリー | |
ジェイエース粒剤 | ミニトマト | |
カルボスルファン | ガゼット粒剤 | だいこん、ねぎ、かんしょ、ばれいしょ、なす、きゅうり、すいか、メロン、とうがん、いちご、キャベツ、はくさい、ブロッコリー |
ベンフラカルブ | オンコル粒剤5 | だいこん、ねぎ、わけぎ、かんしょ、ばれいしょ、なす、きゅうり、すいか、メロン、 とうがん、いちご、オクラ、ほうれんそう、なばな、キャベツ、はくさい、ブロッコリー、カリフラワー、レタス |
オンコルマイクロカプセル | ねぎ、わけぎ、にら、キャベツ、はくさい、ブロッコリー、カリフラワー、レタス、 非結球レタス |
|
フェナリモル | ルビゲン水和剤 | もも、トマト |
フルバリネート | マブリック水和剤20 | 大粒種ぶどう、トマト |
NAC | ミクロデナポン水和剤 | ぶどう、はくさい |
ジメトエート | ジメトエート乳剤 | みかん、なつみかん、かんきつ、かぶ、にんじん、たまねぎ、ねぎ、にら、はくさい、 トマト、ピーマン、かぼちゃ、しろうり、さやいんげん |
ジメトエート粒剤 | だいこん、ねぎ、なす、だいず | |
ベジホン乳剤 | だいこん、キャベツ、はくさい |
※商品名は抜粋して掲載。削除されていない作物でも、使用時期等が変更されている場合があります。
これらの情報は、メーカーのホームページなどを通じて随時情報提供されています。こうした情報をしっかり確認し、引き続き消費者が求める安全・安心な農産物の生産をお願いいたします。