2018 新春号 Vol.102
営農レポート
東京都内におけるGAPの現地での導入
近年、食品安全を揺るがす事件や事故が多発しています。もしも出荷した農産物が残留農薬の基準違反となれば、自分自身の農業経営に影響を与えるだけでなく、産地全体の風評被害にもつながります。
また、農作業中の死亡事故も非常に大きな問題です。農作業中の死亡事故は全産業の中でも高く、建設業と比較しても約2倍の死亡率になっており、毎年約350人の方が亡くなっています。
さらに、近年は消費者の環境保全への意識の高まりもあり、周辺環境に配慮した農業生産を行うことが求められており、化学肥料や農薬は最小限に使用することが必要です。
農業におけるこれらのリスクを最低限に抑える有効な手段の一つに、GAP(農業生産工程管理)という農作業の管理手法があります。農作業の各工程(栽培、収穫、調整、出荷など)を見直し、食品安全、労働安全、環境保全の観点から問題があれば作業工程の改善を行います。
実際にGAPとはどのような事を行うのか、都内でのGAPの取り組みを例に紹介します。
GAPに取り組む前の倉庫
整理整頓後の倉庫
ごみの分別
作業場や調整施設、畑などが片付いていなければどこにリスクがあるのか分かりません。また、必要なものが見つからなかったり、作業の動線が悪くなったりと、作業の効率も悪くなります。まずは整理整頓から行います。ごみの分別は環境保全の観点からも重要です。
◆農薬の適正な保管
①鍵のかかる農薬保管庫で農薬を管理
②土壌消毒の空き缶の保管
①農薬は鍵のかかる堅牢な場所に保管します。また、毒物・劇物は普通物とは分けて保管し、毒物・劇物の表示をします。
②使用済みの農薬のボトルや缶などは、一時保管場所を決めて保管します。
①ミラーと一時停止の設置
②包丁の適切な保管
③ルールの周知のための掲示物
④火気厳禁等の表示
①農作業時でなくても、自宅から一般道へ出る時は事故に注意する必要があります。一時停止等の表示をして、注意喚起をします。
②収穫用の包丁がむき出しで保管されていると、ぶつかってけがをする恐れがあるのでカバーを付けました。また、数の把握ができていないと、畑等で落としてケガにつながったり、出荷用の段ボールに混入したりする恐れがあります。1本1本に番号を付けることで、作業終了後にきちんと戻っているか確認することができます。
③④農場のルールは家族や従業員など皆が把握している必要があります。ルールを分かりやすく掲示することで、全員に周知をすることができます。可燃物を保管している場所では、タバコなどの火気を禁止するための掲示をします。
作業記録や出荷記録の記帳を行います。残留農薬や異物混入などの問題が発生した時には原因を特定することが重要です。そのためには、問題が起こった商品が、どこの畑やハウスで生産されたものなのか追える必要があります。
これらのGAPの取り組みにより、農場にあるリスクを減らすことができます。また、農場のルールが明確になることから、これからも持続的に農業を行っていくツール(道具)となります。自分の目標とする農場にしていくためのツールとして、GAPの取り組みをすることから始めるのはいかがでしょうか。
※GAPの取り組みが十分であるかどうか認証する制度(GLOBAL GAP、JGAP)もあります。東京都では、平成32年度までGLOBAL GAPとJGAPの認証を受けるためのコンサルタントによる指導、審査料等の助成を行っています。GAPの取り組みや事業についての詳細は普及センターへご相談下さい。