2015 夏号 Vol.92
税務・法律・人事・労務管理相談
民法改正で何が変わるか?
契約のルールを定める民法が、制定以来初めて大改正されようとしています。改正案が今国会で通れば、2018年に施行される目安です。社会の変化に対応するとともに、消費者、賃借人、保証人といった、契約上弱い立場にある当事者を保護するというのが改正の趣旨です。金融実務や不動産取引等に影響の出そうなポイントを中心に解説します。
1 敷金は「原則返還」がルール化
賃貸借の終了時における敷金の返還や賃借物の現状回復範囲等について、現行民法には明確な規定がなく、紛争が生じるたびに裁判によって解決されてきました。そこで、改正案では、敷金を、担保目的で交付される金銭と明確に定義した上で、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、賃貸人は敷金の返還義務を負うことを明文化しました。また、「その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由による」場合(つまり通常損耗あるいは経年劣化)は現状回復義務の範囲には含まれないことを明確にしました。
従来の判例法理を条文化したものですが、賃借人の権利意識が向上することが予想されますので、トラブルを未然に防止するためには、今まで以上に、現状回復の範囲や敷金に関する特約の文言に配慮する必要があります。
2 保証人の保護の強化
- (1)個人根保証は極度額を定めないと無効
- 個人根保証契約の保証人は、極度額を限度としてしか保証債務を負わず、かつ、書面により極度額を定めないと保証契約自体が無効になります。建物賃貸借契約に保証人が署名捺印する場合にも適用されますので、不動産を賃貸する家主としては、賃貸借契約書において、保証人の極度額を書き漏らさないように注意する必要があります。
- (2)事業資金の借入につき個人保証を原則として禁止
- 事業を営む父親の借入を親族が連帯保証をした場合、その事業が失敗すると、親族全員が自己破産に至るという「保証被害」。改正案では、①『第三者』が保証人となる場合は、保証契約の締結の前一ヶ月以内に、公証人役場で、保証債務を履行する意思を表示して公正証書に記録しなければ保証契約は無効であるとする一方で、②主たる債務者である企業の取締役等、支配株主、共同事業者、従業員として籍を置く配偶者は『第三者』には該当せず、連帯保証人になれる旨を規定し、保証人の範囲を限定しました。
- (3)保証人への情報提供義務
- 事業資金の借入れについて、主たる債務者の委託を受けて個人が保証する場合、主たる債務者は、保証人に対して自己の財務状況等を説明しなければならないという義務が導入されます。義務違反があった場合には、保証契約自体が取り消されることもあります。
金融機関は、第三者による保証の形式要件や連帯保証人と主たる債務者との間の人的関係を確認し、保証が無効とならないように留意すべきです。
3 消滅時効期間の統一
従来職業ごとに定められていた短期消滅時効が廃止され、消滅時効期間は、「権利行使できる時から10年」と、「権利行使できると知ったときから5年」の時効期間に統一される見込みです。実務的には「権利行使できると知ったとき」とはいつか?が問題となり、個別の契約解釈や事実認定を基礎に、そこから「5年」を意識せざるをえないでしょう。
4 変動法定利率の採用
法定利率が従来の年5%から3%になります。商人間に適用されていた商事法定利率6%(商法514条)も削除され、改正民法の3%に統一されます。低金利の実情に合わせたものです。また、法定利率は、法務省令で3年ごとに変更されることになりますので、債権管理上も法定利率を常に意識する必要があります。
5 認知症高齢者の締結する契約は無効
超高齢社会を向かえるに際し、意思能力のない者がなした契約は無効であるという暗黙のルールが、初めて条文化されます。契約締結時に意思能力があったか否かをめぐるトラブルが増加することが予想されますので、将来判断能力が低下することに備えた任意後見契約等の重要性が高まるのは必至です。
6 定型約款の規制
銀行取引、保険、不動産賃貸借、インターネット取引等で多用されている定型約款。消費者が「約款」の中身を知らないために、企業とのトラブルが生じることがありました。改正案では、「約款の内容確認を行えば、顧客が理解しているかいなかにかかわらず有効」とする一方、「顧客の利益を一方的に害する条項は、約款としての拘束力がない」として、不当条項を規制しています。金融機関、不動産貸主には、約款の合理性に十分配慮することが求められます。
これ以外にも、改正項目は200以上と多岐に渡ります。詳細は法務省のサイトで閲覧可能です。個別のご相談は、中央法務事務所あるいは税理法人青山&パートナーズ(法務部)まで。