HOME > 広報誌 みどり > 2014 夏号 Vol.88
2014 夏号 Vol.88
税務・法律・人事・労務管理相談
遺留分について
- 「地上にではなく天国に宝を積みなさい」とはよく言われることですが、日々生活している人間としては、そうとばかりも言っておられません。生活していくためには地上にもある程度宝を積む必要があります。人生が終わるときに蓄えた財産がゼロになっているのが理想的という人もいますが、計算どおりにいきませんので、ある程度の財産が残ることが結構あります。そこで、自分の死後に残った財産をどのように処分するのかについて遺言書を作ることになるわけです。
- ところが、遺言書を作ったからといって必ずしも全部遺言書のとおり最終的にその内容が実現されるとは限りません。現在の民法では遺留分という制度があるからです。生前に派手な生活をして自分で自由に使ってよいはずの財産も自分の死後に残ってしまえば完全には自由にならないというのは矛盾があるともいえますが、現行の制度ではやむをえません。例えば、配偶者と長男、二男の合計3人の法定相続人がいる場合に、「全部の財産を長男に相続させる」という遺言がありますと、配偶者は法定相続分「2分の1」の「2分の1」である4分の1、二男は法定相続分「4分の1」の「2分の1」である8分の1の遺留分があることになります。但し、遺留分があるからといって当然に遺留分をもらえるわけではなく、配偶者も、二男の方も長男を相手にして遺留分減殺請求をする必要があります。
- 遺留分減殺請求の意思表示は訴によることを必要としませんが、後日の証拠とするため、配達証明付の内容証明郵便にするのがよいでしょう。しかし、当事者間で話し合いができなければ家庭裁判所での調停、地方裁判所での遺留分減殺の訴訟が必要となってきます。
- 遺留分減殺請求については、遺留分の権利を持つ人が相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年で時効により消滅しますので注意が必要です。遺言が無効であるといって争っていても時効は進行してしまいますので遺言が無効だと思っていても遺留分減殺請求だけはしておくことが必要です。又、相続開始から10年経過しますと遺留分を行使することができなくなりますのでこの点の注意も必要です。
- 遺留分のある人は、配偶者と子が相続人の場合には配偶者と子、配偶者と直系尊属(被相続人の父母、祖父母等)が相続人の場合には配偶者と直系尊属、配偶者と兄弟姉妹が法定相続人の場合には配偶者のみで兄弟姉妹はなし、ということになり、それぞれの場合に遺留分の割合が決まっています。
- ここで注意しておきたいことは、遺留分は被相続人が亡くなった時点で残っていた財産のみで計算されるわけではないということです。特別受益(生前贈与)ということが一番問題となります。つまり、この場合、二男の遺留分の算定方法は、相続開始時に存在した財産に二男が受けた特別受益(例えば、二男が生前1000万円の贈与を受けていたなど)を加算し、更に他の法定相続人も生前贈与を受けていればこれも加算し、相続開始時に残った債務を差し引き、遺留分算定の基礎財産を算出して、遺留分割合を掛けて遺留分金額を算出したものから生前贈与分1000万円を差し引くということになります。
- 遺留分については、計算の方法が難しい場合が多いので懇意の専門家に相談されるとよいでしょう。
- なお、遺留分については被相続人の生前に遺留分権利者が家庭裁判所の許可を得て放棄することができます。例えば、先に挙げた例でいえば、被相続人が生前に、二男に対して遺留分程度のものを贈与することによって、二男が家庭裁判所の審査を受けて許可をもらい遺留分放棄をすることができます。これにより、ご自分が他界した後の紛争の芽を摘み取っておくこともできます。